- ――
- 後半では、デビュー以降のお話を伺っていきたいと思ってるんですが、
お互いの初勝利などは覚えていますか?
- 藤岡
- 自分のことで精一杯だったので、将雅のことを気にする余裕はなかったですね。
- 川田
- 僕は佑介の初勝利は鮮明に覚えてます。先を越されましたからね。
自分が一番先に勝ちたいって思っていたから、
佑介が勝ったときは『ああ、勝ったな』って…。
〝おめでとう〟なんていう気分にはなれなかった。
- 藤岡
- めでたくないもんな。
- 川田
- 焦ってしょうがなかったよ。
初年度から40勝はいける! って思ってたから。
なんて浅はかな…(笑)。
- 藤岡
- 僕はそういう明確な目標はなかったけど、新人賞は獲りたいと思ってた(初年度から35勝を挙げ、99年の北村宏司騎手以来5年ぶりにJRA賞最多勝利新人騎手を受賞)。
将雅はなんで40勝だったの?
- 川田
- 親父(佐賀競馬の調教師・川田孝好師)の厩舎に入ったジョッキーがデビューした年に
36勝したので、それくらいは超えられるだろうと簡単に思ってたのかなぁ。
デビュー当初って目標を聞かれるでしょ。
みんな『新人賞を目指して頑張ります!』とか言うけど、
僕は『40勝挙げて新人賞獲ります!』って言ってた。
いや~、今思うと思い上がりも甚だしい…。その半分も勝てなかったからね。
- 藤岡
- 思い上がってる割に、顔ははにかんでたけどな(笑)。
- 川田
- そりゃあ、競馬学校を出てすぐだから(笑)。
でもまさか、すぐに心が折れるとは…。
なんて甘い考えだったんだろう…って、理想と現実のギャップを痛感したよ。
僕はデビューした週の土曜日に乗り馬がいなくて日曜日にデビューしたんだけど、
佑介は土曜日の初騎乗から2、3着にきてて。
- 藤岡
- 初騎乗で2番人気の馬に乗せていただいて。3着だったな。
- 川田
- 佑介の周りが『初騎乗、初勝利をさせてやろう』みたいな雰囲気のなか、
僕は日曜デビューで、2週目なんて1頭も乗り馬がいなかった。
でもその間に佑介はポンポン乗っていて、確か2週目に勝ったんだよな。
- 藤岡
- うん。8戦目だったかな。
- 川田
- 俺はまだ2回しか乗ってない間に、同期に勝たれて…。
そりゃあ焦るよな。初勝利を挙げたときは、ホントにホッとしたよ。
- ――
- 川田さんはつねに「一番仲がいいのは佑介、一番のライバルも佑介」って
おっしゃってましたよね。
- 川田
- 同じ関西で一緒にスタートしたのに、いつも負けてましたからね。
3年目からようやく同じくらい勝てるようになりましたが、
2年目までは勝ち星もものすごく差があって。
- 藤岡
- さっきも言いましたけど、最初のころは自分のことで精一杯で、
人のことを気にしてる余裕がなかった。ホントに必死だったから。
でも、3年目の2月の小倉大賞典で、
初めて将雅をライバルっていうか、意識し始めたような気がする。
僕は1番人気のエイシンドーバーに乗っていて、正直、かなり自信があったのに、
自分のミスで2着に負けて。
そのときに逃げ切ったのが、将雅のメジロマイヤー(11番人気)。
お前、『よっしゃー!』って、すごい叫び声上げたよな。
- 川田
- うん。思いっ切り叫んだ(笑)。
- 藤岡
- 直線に入って、あとは前を捌けば…っていうところで詰まってしまって、
それでも届くかなって思いながら追ってたんだけど、結局、将雅に逃げ切られて。
『あ~、負けた~』って言ったら、ワンテンポ置いて『よっしゃー!』っていう将雅の叫び声が
聞こえてきた。そんなにぃ? みたいなデカイ声で(笑)。
- 川田
- 全然人気がなかったから、ゴールした瞬間は「あ、勝っちゃった…」って
感じだったんだけど、ゴールして1コーナーに向かう途中で、
後ろから佑介の『あ~、負けた~』っていう声が聞こえたんだよ。
それを聞いた瞬間、めっちゃ嬉しくなって(笑)。
佑介が1番人気で俺は人気薄だったから、余計にテンションが上がっちゃって、
気づいたら叫んでた(笑)。
- 藤岡
- あれは悔しかった。4コーナーから、ゴールして1コーナーに入るまで、
あのレースだけは鮮明に覚えてる。絶対に俺を確認してから叫んだよな。
- 川田
- うん。佑介はその前にアズマサンダースで重賞を勝ってたから(05年京都牝馬S)、
何よりも目の前で2つ目の重賞を勝たれなかったっていうこと、
それから重賞の数に関しては追いつけたっていう喜びもあった。
そんな風につねに佑介を追いかけてきたから、
ライバルは? って聞かれれば佑介なんだよね。
- ――
- 3年目の06年は、川田さんが勝ち星で抜きましたね。
- 藤岡
- それまで勝ち星では同期に抜かれたことがなかったので、
あ~、負けたなって思いましたね。
自分のほうがいい馬に乗せてもらってる意識があったし、
それで負けちゃったわけだから、もっと頑張らなきゃって。
- 川田
- 3年目は夏から自分でもビックリするくらい勝てたんですよ。
でも、秋に入ってケガをしてしまって、最後の3カ月は乗れなかった。
だから、佑介に勝った喜びよりも、乗り馬が決まっていた秋華賞とか菊花賞に
乗れなかったっていう無念のほうが大きかった。
- ――
- 翌年は1勝差で川田さんに軍配、次の年は2勝差で藤岡さんが逆転。
ホントに毎年、接戦ですよね。
- 藤岡
- 年末になると、最後は将雅より一歩前に出ていたいなっていう気持ちになります。
でも、それまで過程ではあまり意識はしませんね。
周りからは、『お前ら、いつもなんだかんだで最後は並ぶな』ってよく言われますけど。
- 川田
- 僕は年明けの成績があまり良くなくて、その間に佑介がポンポンと勝って、
いつも離された状態からスタートするんですよね。
差が詰まってくると、また佑介がリードして、
詰まってリードして詰まってリードしての繰り返しなので、
周りからするといつも接戦してるように見えるんでしょうね。
ホントは抜け出したいんですけど。
- 藤岡
- 俺だって突き放したいけど、いつも待っちゃうんだよな(笑)。
待ち癖がついたっていうか、
抜け出すとフワッとするみたいな(笑)。
- 川田
- 今は僕がめちゃめちゃフワッとしてますよ。
この1カ月は、(騎乗停止で)いないも同然ですからね…。
- ――
- スプリンターズSは…、いろいろ残念でしたね。
- 川田
- 悔しかったですね…。だた、アウト(降着)になってしまったことは、僕の精神的な未熟さが出てしまった結果です。
今後に生かしていかなければと思います。
- 藤岡
- 将雅が降着になったとき、ふと思ったことがあって。
あれが1着降着だったら、最悪だな、キツイだろうな、
で終わってたのかもしれませんけど、
結果的にはジョッキーからしたら負けは負け。
ただ、GIで降着になるなんて、
経験としてはすごく大きいことですよね。
だから僕は、
かわいそうとか気の毒だなっていう思いは
一切なくて、ああ、こんな経験をして、
将雅はまたひとつステップアップ
するんだろうなって思った。
もちろん、同じ経験をしたいわけじゃないけど、
ちょっとずるいなって。
- 川田
- 今、冷静になって聞けば、佑介の気持ちもわかるような気がするけど…。
正直、レース直後は自分がアウトになるとはまったく思っていなかったので、ハナ差で負けたことが悔しくて悔しくて…。
そっちの思いのほうが強かった。
- 藤岡
- 今まで見たことがないような、キツイ顔してたもんな。
-
- (スプリンターズSで、川田騎手が降着になった話の中で...)
- 川田
- ただ、冷静になっていくにつれ、自分のしたことの大きさを痛感して。ものすごくたくさんの人に迷惑をかけたわけですからね。
ましてや師匠の馬でね、あそこまでGIが近づいていたのに…。
自分がもう少しまともに乗っていれば、アウトにもならずに勝っていたと思うんです。
だから本当に申し訳なくて。
- 藤岡
- 僕らの仕事も、ある程度成績が安定してきたりすると、停滞することってあるじゃないですか。
もう一歩上に行こうという段階で、少し淀むというか、たるむというか。
僕らって、ちょうどそんな時期なのかなぁって思ってたんですけど、将雅にとってこの出来事が起爆剤になるんじゃないかと思って。
僕より先に、スイッチを押したんじゃないかって思ったんです。
これでまた、将雅が〝動き始める〟んじゃないかって気がして
(取材した日の週末に、川田騎手は菊花賞を制覇!)。
- ――
- 同期だからこそ感じる思いですね。
- 川田
- 深いねぇ。佑介は深いんですよ。
でも、同期として一緒にやってきた佑介からすると、そんな風に感じるものなんだね。
- ――
- ところで、スプリンターズSの日の夜、おふたりの共通の
お知り合いに、藤岡さん、川田さんの両方から、
「(お互いを)なぐさめてやってください」というメールが
あったそうですが。
- 藤岡
- それ、知らなかった(笑)。
- 川田
- 僕、あの日、子供のころと競馬学校を辞めたいって言った
日を除けば、人生で一番泣きましたね。
いろいろな人の思いとか、もちろん悔しい思いもありましたけど、優しくしてもらえるつらさもあったし…、
もうホントにいろんな思いで泣きました。佑介がそうやって
言ってくれてたっていうだけでも泣けてくるし(笑)。
- 藤岡
- 降着って、レースの大小に関係なく、競馬ではよくあることじゃないですか。
僕はそういうとき、一人でいたくないんですよ。
あの日は将雅も含めて、何人かでご飯を食べに行く約束をしてたんですけど、
将雅は『行けるような状態じゃないので、今日はやめておきます』って。
来ればいいのになぁって思ってたら、たぶんひとしきり泣いたあとに『やっぱり行きます』って言い出して。
- 川田
- (福永)祐一さんに『落ち着いたら来い』って言われてたんです。
- 藤岡
- そういう将雅を見て、大人になったというか、人に甘えたり頼ったりできるようになったんだなって思いましたね。
- ――
- 昔の川田さんだったら…。
- 藤岡
- 絶対に一人でなんとかしようと思っていたはずです。だから、強くなったなって思って。
- 川田
- あの日は…、ベロッベロに酔っ払いました(笑)。
- 藤岡
- 俺にめっちゃなついてたもんな(笑)。
『佑介、ちょっとこっちきて』とか、かわいい声で呼んだりして(笑)。
- 川田
- これは書かないでくださいね!
- ――
- わかり合ってるというか、本当に仲がいいですよね。
- 藤岡
- ほかの人から将雅のあまりよくない噂とか評判を聞いても、
僕の将雅に対する気持ちとか見方は絶対にブレない。
そういうことを言ってくる人より、僕のほうが絶対に将雅のことをわかってますから。
心から「将雅はそんなヤツじゃないですよ」って言える数少ない人間です。
- 川田
- 僕は人付き合いが上手じゃなくて、
いろいろと誤解を招きやすいので…。
まぁ、逆に僕が『佑介はそんなヤツじゃないですよ』っていう機会は
まったくありませんからね。悪い話は聞いたことがないですから。
でも、佑介は多々あるんだろうな…(笑)。
でも、そう思っていてくれているのは素直にうれしいです。
- ――
- 川田さんは思ったことをストレートにぶつけるタイプ、
藤岡さんはどちらかというと、優等生のイメージですよね。
逆に精神的な負担はありませんか?
- 藤岡
- どっちが楽と思うかじゃないですか。
僕は将雅みたいに感情をストレートにぶつけて、
それに対する風当たりに耐える自信はない。
それがイヤだから、風が当たらないようによけながら進んでいってるだけで。
計算しているわけじゃないけど、小さいころから無意識にそうやって生きてきたから、
自然と身に付いてるんだと思う。
- ――
- 前回、四位さんと福永さんの対談をしたんですが、そのときに四位さんが
『俺に祐一の柔軟性や社交性があったら、ジョッキーとして無敵ちゃう?』
っておっしゃって、それに対して福永さんが
『それを言うなら、僕に四位さんの馬乗りのセンスがあったら無敵ですよ』って。
お二人は、相手のこんなところが自分にあれば…と思うところはありますか?
- 川田
- それはもう、人付き合いのうまさでしょう。
佑介の人当たりの良さが僕にあれば…(笑)。
僕はなかなか心を開けないんですよね。
好き嫌いも激しいですし、嫌いな人とは関わり合いたくないって思ってしまう(笑)。
- 藤岡
- 僕は『自分が一番だ!』っていう気持ちが、
将雅くらいあればいいなと思う。
自己愛っていうのかな。
- 川田
- でも佑介はホントに優しい。仏やなって(笑)。僕には絶対に真似できない…。
- ――
- では、お互いに直してほしい、直したほうがいいんじゃないかって思うところは
ありますか?
- 藤岡
- 直してほしいっていうわけじゃないけど、こうグワァ~って怒りとか高ぶったときに、
その張本人にぶつけるのはいいと思うんだけど、
そういう場面にたまたま居合わせてしまった人のことも考えてほしい。
無関係でも、ストレスを感じたりすることもあるから。僕なんかはもう『ああ、またやってるわ…』くらいで、全然平気なんですけどね。
- 川田
- すみません…。
- 藤岡
- わかり合ってる人たちばかりだったらいいんだけど。将雅が損をすると思うよ。
- 川田
- はい…。僕は佑介に対して直してほしいところなんて何もないです! ホントにないです!
- ――
- ジョッキーとしても人間としても、お互いの存在がなかったら、
〝今〟がまったく違うものになっていたかもしれませんね。
- 川田
- もちろんそうですよ。僕はつねに佑介を追いかけてきたので。
佑介がいなければ、自分が置かれている状況に満足してしまっていたかもしれない。
佑介がいたから、負けたくない、追いつきたいっていう気持ちを
持ってやってこれた。
- 藤岡
- さっきのスプリンターズSの話もそうですが、
将雅の存在はやっぱり刺激になりますからね。
- ――
- まぁ、あまり同期、同期って比べられるのもイヤかもしれませんが…。
- 藤岡
- 全然イヤじゃないですよ。どうせならもっと高いレベルで競り合えるようになりたい。
- 川田
- そうだね。でも佑介はほら、抜け出すとフワッとする癖があるから(笑)。
- ――
- では最後に、ジョッキーとしての現在のモチベーションを教えてください。
- 藤岡
- できることをしっかりやる…っていうことですかね。
プロセスとか過程がない結果は、
自分のなかに残らないし、自信にもつながらない。
年明けから覚悟はしていたんですけど、今年の春まであんまり勝ち星が伸びなくて。
理由はわかっているんです。リズムが悪かったし、たるんでいた部分もありますから。
やっぱりやることやってないとダメだなって痛感したので、
できることはちゃんとやっていこうっていうのが今のモチベーションですね。
- 川田
- 僕は今年、年明けから数を勝つことに重きを置いて乗ってきました。
夏に入るまではいいリズムできてたんですけど、
夏は思ったよりもリズムに乗れなかった。
ただ、今年もまだ2カ月残ってますし、
できるだけ数を勝ちたいと思ってます。
- ――
- 一時期はリーディング争いに加わるか、の勢いでしたもんね。
- 川田
- 僕もそう思って乗ってたんですけどね…。
置いて行かれたばかりか騎乗停止になってしまって、完全に取り残されました(笑)。
ただ、今年はトップジョッキーの方たちのケガが相次いで、
それで僕らにもいい馬が回ってきて勝てただけなので。
上の方たちが普通に乗っているなかで、
もっと結果を残せるように頑張らなくちゃいけないと思ってます。