11月13日、2カ月の休養を経て、ついに岩田康誠騎手が実戦に復帰。
今回は、リハビリ中の葛藤や苦悩、支えてくれた家族への思い、
そして復帰直後のリアルな心境をたっぷりとお届けします!
(取材日=11月17日、取材・文=不破由妃子)

秋競馬開幕を翌週に控えた9月4日。
札幌1Rでスタート直後に落馬し、
右鎖骨骨折と左足関節外果骨折の重傷を負った岩田康誠騎手が、
11月13日、ついにターフに帰ってきた。

翌週土曜日の新馬戦で復帰後初勝利を挙げると、
日曜日には13番人気エーシンフォワードでマイルCSを制覇!
イン強襲の彼らしい大胆な騎乗で、完全復活をアピールした。

さて、そんなマイルCSからさかのぼること4日前。
無事復帰を迎えた心境をうかがうべく、栗東に岩田騎手を訪ねた。
現れた彼の表情は……ん?、ちょっと沈みがち!?

1勝するまではやっぱり不安で…。まぁ、まだ1週しか乗ってないからね。

復帰した週は、土日で7鞍に騎乗し、最高は3着。
結果が出せなかった自分に、もどかしさを感じているようだった。
たかが2カ月、されど2カ月、である。
なぜなら岩田騎手にとって70日間の休養は、キャリア19年目にして最長の空白だった。

これまでにも1カ月半程度は休んだことがあったんやけどね。
丸々2カ月休んだのは、ジョッキーになって初めて。
なにしろ、
今回落馬したときは記憶がなくなったからねぇ。
気がついたら病院やった。
仕方がないこととはいえ、関係者のみなさんには本当に申し訳ないことをしました。
でもホントに長かった。
2カ月だけど、すごく長かった…。

ゆっくりと、絞り出すように言葉を紡ぐ岩田騎手。
しかし、久々の騎乗について訊ねると、そこは根っからの馬乗り、やはり声が弾む。

すごく楽しかったし、やっぱり気持ちいいなぁって思った。
それ以上にね、 やっとここに戻ってこられたんやなぁって。
でも不安もあったし、緊張もありました。
調教に2週続けて乗って、体が戻ってることは確認できてたんやけど、
実際、ホントに戻ってるのかなって。
まぁ、イケる! と思ったから復帰したわけやけど、1勝するまではね…。
ケガをするのを恐れて守りに入ってもアカンと思うし。

何はともあれ、まず1勝。
その願いは翌週早々の新馬戦で、
しかも日曜日はGIタイトルもという最高のかたちでかなうのだが、
このときの岩田騎手は知る由もない。

休んでいる間は、気持ちの面で病んでたかも。
ケガをしたことに対するショックと、早く治さなくちゃっていう焦りと…。
馬に乗られへん寂しさもあったしね。
競馬も大きいレース以外は観ないようにしてた。
どうしたって乗りたくなってしまうから。
自分がこれまで乗ってきた馬が勝ったりしたら余計にね…。
とにかく何もできないのがつらかった。
腕も足も動かせられへんし、
リハビリといっても軽いものしかできへんかったし。
リハビリで筋力を付けても、馬に乗るために必要な筋力ってまた違うんですよね。
だから、とにかく早く攻め馬に乗りたかった。
それが一番のトレーニングやろうって。

これまで数回の取材で感じたことは、岩田騎手は本当に馬と競馬が大好きで、
ジョッキーになるべくして生まれてきたような人だということ。
そんな彼が馬に乗れないとしたら──そのストレスたるや、想像に難くない。

俺から馬を取ったら、何も残らへんやないかい! 俺はなんやねん! 俺は何してんねん!? ってずっと思ってた。
ホンマに早く復帰したい一心やったね。


自身〝病んでたかも〟と振り返る休養の日々。
そんな彼を支えたのは、ほかでもない家族だ。

休んでたおかげでね、娘の運動会を見に行けたんですよ。
ジョッキーをやってると、雨で順延にでもならない限り、
日曜日に行われる子供の運動会には行かれへんからね。
でも、親が参加する競技に
出られへんかったのが悔しかったなぁ。
でも今回の休養で、改めて家族って大事やなって思った。
自分としては、ホントは
10月4週目か5週目に復帰するつもりやったんだけど、嫁さんに
『今回だけは、それはやめてください』
って言われて。
俺が絶対に無理して乗ろうとすることをわかってたみたいで…。
無理するつもりは全然なかったんだけど、
これまで結果的に無理をして、後々まで尾を引いたこともあったから。
今回も嫁さんの本音としては、
11月3週目くらいまでは待ってほしかったらしいんやけどね。

もちろん不本意な休養ではあったけれど、
同時に、普段は味わうことのできない家族との貴重な時間を過ごし、
改めてその存在の大きさに気づいたという岩田騎手。
ケガの功名ではないけれど、長い目で見れば必要な充電期間だったのかもしれない。

あと、ようテレビを観てたわ(笑)。
北海道の病院に入院していたとき、
昼の3時ごろからやっていた
『華麗なる遺産』っていう
韓流ドラマをずっと観てたんですよ。
でも途中で退院になってしまったから、もう続きが観たくて観たくて(笑)。
退院してすぐにDVDを借りてきました。
でも、後半にきて、
続きがずっと貸し出し中の時期があって、
それがすごくストレスやったわ(笑)。
病院は朝に行くだけなので、あとはずっとテレビ。
1日が長いこと長いこと。

ともあれ、馬に乗れないストレスと、ドラマの続きが観られないストレス(笑)を乗り越え、
無事復帰をはたした岩田騎手。
同じ日に復帰した横山典騎手も、12月4日には騎乗停止が明ける。
トップジョッキーの落馬負傷が相次いだ今年の競馬界だが、
残り1カ月というところで、ようやく役者が出そろうわけだ。


さて、9月5日終了時点で、関西リーディングのトップに立っていた岩田騎手。
これについては
「ケガをしていなかったら、リーディングを獲れていたかっていうと…
  それはまた違う話だからね」と至って冷静だが、
今年の関西リーディングは、その時点で僅差の3位に付けていた福永騎手が濃厚。
福永騎手といえば、常日頃から「ライバルは岩田くん」と公言していることもあり、
岩田騎手も内心複雑なのでは…。

いや、そんなことはないよ。
今は自分自身、まだまだっていう気持ちがあるからね。
まず自分自身に勝たんと、馬には勝たれへん。
ただ、トップは狙っていかなくちゃいけないとは思ってる。
そういう気持ちは、園田時代から今もずっと持ち続けてる。

〝俺たちの世代がトップを獲らなければいけない〟
──この気概こそが、JRA騎手・岩田康誠の原動力。
いつだってリーディングの頂を目指してきた。
ちょっと弱気モード(?)のこの日の彼からは、威勢のいい言葉こそ聞かれなかったが、
「来年は改めて、目指せリーディングですね」という筆者の言葉に対し、
力強く「もちろんです!」と答えてくれた。

先述したように、ここにきてようやく役者がそろい、
年が明ければ、一斉にゼロからのスタートとなる。
群雄割拠のベテラン勢に加え、松岡、川田、藤岡佑騎手ら次世代の台頭も著しい昨今、
2011年の競馬界がおもしろくないわけがない。

1月は全員がゼロからのスタートやからね。
勢いに乗れるかどうか、
毎年すごく緊張するんです。
ただ、今回ケガをして実感したのは、
やっぱり1年を通して健康でいることが何より大事だっていうこと。
そのなかで目立ちたいっていうか、太陽を浴びたいですよね。
早く自分のペースを取り戻して、勢いに乗ってガッツリいきたい。

それと、今GIに出られるようなお手馬が…。
早く出会いたいなと思ってるんですけど。
とりあえず残り1カ月、絶好調をアピールして、来年につなげていければ。
ダービー? やっぱり勝ちたいですね。
2年連続で1番人気やったからね…。
理想をいえば、自分がいろいろ教えてきた馬で勝ちたい。
でも今、一番勝ちたいのは、やっぱり次の1勝!
とね。

ブッシューン?
もしや岩田騎手の〝擬音シリーズ〟に新作が加わったか!?

周りが(言うのを)期待し始めたから、
は封印したんやけど。
いや、今でも言うてるな(笑)。
でも実は、より
のほうがよう言うてるよ。
意味? 馬がこう、タメてタメて伸びる瞬間みたいな(笑)。
でもね、最近はインタビューでも、
自分のなかで言葉を一度整えて、って意識してるんですよ。

最後にきて、ようやく少しだけ岩田節が復活した今回のインタビュー。
確かにいつものテンションにはなかったけれど、
そのぶん、馬に乗れなかったことのつらさと不安が、
じんわりと染み入るように伝わってきた。
とはいえ、この取材の4日後には、マイルCSをブッシューン!と制覇。
残り1カ月、そして2011年、やはり岩田康誠から目が離せない!


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