(取材日=2011年3月16日)
2007年のデビューから、丸4年間所属した坂口正大厩舎が2月いっぱいで解散。
3月1日、浜中俊騎手は、フリーとして新たなスタートを切った。
船出となった週は、阪神と中山で16鞍に騎乗。
この騎乗数はそのまま、関係者の期待感の表れだろう。
その内容も、土曜日のチューリップ賞では、6番人気メデタシを3着に導き、
桜花賞への出走権を確保。
翌日曜日には中山7R で勝利を挙げるなど、
〝フリー・浜中俊〟をアピールするに十分な結果となった。
正直、まだそれほど実感はないんです。ただ、攻め馬の頭数が減りましたね。
(追い切りが行われる)水曜、木曜以外の日も、
自厩舎の馬に4頭は乗せてもらってましたから。
これからは、自分で調教に乗る馬を探さないと。
所属からフリーになるということは、攻め馬の頭数ひとつをとっても、
当たり前が当たり前でなくなる。
しかし、彼に必要以上の力みはない。
環境の変化にも、すんなりと順応しているようだ。
営業はキライじゃないですよ。
〝時間がいっぱいあるので、攻め馬に乗せてください!〟って、
いろんな方にお願いをしています。
今までが(攻め馬に)たくさん乗っていたので、
逆に〝乗らなくていいのかな〟って不安になるんです。
攻め馬自体、たくさん乗っても全然苦にならないですから。
そんな彼にも日常のなかで、
一度だけ『フリーになったことを実感しました』という瞬間があった。
フリーになった初日の話なんですが、
今は馬場の開場が7時なので、
6時半過ぎにトレセンに行ったんです。
それで、門を車で通ろうとしたら、
警備員さんに『アカン、アカン!』って止められて。
『何でですか?』って聞いたら、
『6時半からは車は通れないって決まってるから』と。
所属していたときは、
毎朝馬場が開場する1時間半前には(厩舎に)行ってたんです。
今の時期なら、5時半くらいかな。
だから僕は丸々4年、みんなが知っていたそういうことを、
まったく知らなかったんです。
その日は仕方ないからいったん戻って、
改めてバイクで行ったんですけど、
初日から危うく遅刻しそうになりました(笑)
そういったトレセンのルールを知る機会がないほどに、
無我夢中のなかで過ぎた4年間。
調教にどれだけ乗っても苦にならない浜中俊、
関係者に自ら積極的に〝乗せてください!〟と明るく声をかけられる浜中俊、
そして、フリーになった最初の週から、16頭の乗り馬が集まる浜中俊。
もちろん、持って生まれた彼の資質もあるだろう。
しかし、今の〝浜中俊〟があるのは、言うまでもなく、坂口正大師の尽力の賜物だ。
そんな師との最後の日、2月27日(日)は、浜中騎手にとって忘れられない1日となった。
この日の騎乗は、阪神で6鞍。
うち、3鞍が坂口大厩舎の管理馬であった。しかし、師の姿は阪神競馬場にはなく──。
先生は小倉に行ってらしたんです。
でも〝その日だけはこっち(阪神)に来てください〟ってお願いして。
先生が戻ってきてくださったのは、8レース直前、
僕がパドックでまさに馬(ピサノプレミアム)に乗るときでした。
先生は一言〝間に合ったわ〟って。
僕も〝来ていただいただけで十分です〟って…。
阪神8R、4歳上500万下。浜中が騎乗するピサノプレミアムは1番人気の支持を受けた。
正直、最後の週ではあの馬が一番チャンスが大きいと思っていたので、
いろんなプレッシャーがありました。
1番人気だということとはまた別の、何ともいえない緊張感があって。
とにかく先生に1勝を捧げたいっていう気持ちがありました。
結果、浜中&ピサノプレミアムは、1番人気に応え、好位から危なげない勝利を飾る。
『勝ったときはホッとして。つい、ガッツポーズが出てしまいました』。
ゴール板を過ぎた瞬間、胸元で拳を握り締めた浜中騎手。
4年間のさまざまな思いが凝縮された、小さく重たいガッツポーズであった。
そして、師が待つ検量室前へ──。
先生が〝よかったよかった、よう頑張った〟って言ってくださって。
最終レースでも先生の馬に乗る予定があったので、
ホントはそのあとに泣こうと思っていたんです(笑)。
花束も用意していたので、そこで思いっ切り泣こうと。
でももう、我慢できなくて…。
先生は結構、涙もろい方なので、
つられてしまうかなぁなんて思っていたんですが、
あのときは僕のほうが先に泣いちゃいました(笑)。
恥ずかしいから、人前では泣かないようにしてるんですけどね。
あのときはもう、周りが見えなくて。
今にも泣き崩れそうな浜中騎手の肩を、坂口大師が抱きかかえる。
師の顔ももちろん、涙で歪んでいた。
翌日のスポーツ新聞の紙面では、そんな師弟の姿が感動的に伝えられた。
何も知らずに飛び込んだ競馬界、そして師のもとで過ごした4年間──。
こらえ切れなかった涙には理由がある。
次回では、最初で最後の弟子となった浜中騎手が、坂口大師との日々を振り返る。
(第2回へ続く)