(取材日=2011年3月16日)
「先生に甘えっぱなしの4年間だったと思います」
──前回、坂口大厩舎で過ごした4年間を、こう振り返った浜中騎手。
坂口師やスタッフの全面バックアップ態勢をあとになって知らされ、
改めて今、〝甘かった自分〟と向き合っている。
どんな状況になっても、自厩舎はバックアップしてくれるだろう…
っていう甘えが、やっぱりどこかにあったと思います。
その都度、ジョッキーとして危機感を感じることはありましたけど、
自厩舎があるっていうことが、
自分のなかでひとつの逃げ道になっていたというか…。
フリーとなった今、もう自厩舎という存在に甘えることはできないが、
今度は〝自分自身〟にどこまでだって甘えることができる。
そこで、自分を律することができるかどうか。
そのあたりが、フリーになって活躍の場を広げる騎手と
伸び悩む騎手の明暗を分けるのだろう。
それは浜中騎手も重々承知。「もう甘えは許されない」。キッパリと言い切った。
フリーって、楽をしようと思えばいくらでもできてしまうんです。
たとえば、騎乗馬を集めるにしても、
エージェントの方にすべて任せてしまうこともできるし、
そうすれば、自分で厩舎を回らなくても済んでしまう。
調教も、追い切りだけでいいなら、水曜と木曜にトレセンに行けばいい。
そうすることが悪いことだとは思いません。
ただ、自分はそういう立場ではありませんから。
だから、これまでと変わらず、積極的にトレセンに行って、
乗せてもらえる馬を自分で探して、とにかく今は、
できるだけ多くの方に自分の顔を売りたいと思っています。
4月10日終了現在、17勝を挙げ、関西リーディング6位。
3月以降も、毎日杯をレッドデイヴィスで制したほか、
若葉Sでは12番人気ダノンミルを勝利に導くなど、
〝フリー・浜中俊〟の顔は、ファンに、そして関係者に、着々と刻まれている。
もとより、関西の先輩騎手からの評価が高い浜中騎手。
〝注目の若手〟に話題が及ぶと、必ずといっていいほど名前が挙がる。
そのことを告げると、
ホントですか?でもそのぶん頑張らなくちゃいけないですね。
〝なんや、期待はずれや〟って思われたくありませんからね。
フリーになったらアイツはダメだとか、
先生がいなくなったらアイツは変わったとか、
そう言われるのが一番いやですし、先生にも申し訳ないですから。
現在、関西リーディングのトップに立つ岩田康誠騎手も、彼の将来性を買うひとり。
「(若手騎手のなかでは)俊がいいんちゃうかな…」と、
ポツリと言ったひと言が記憶に残る。
その岩田騎手と浜中騎手、実はとっても仲がいいという。
岩田騎手37歳、浜中騎手22歳。年齢差を考えても、ちょっと意外な(?)交遊録だ。
岩田さんとは、家族ぐるみで親しくさせていただいてるんです。
失礼な言い方かもしれませんが…、
なんか岩田さんって好きなんです(笑)。
僕は、理屈でうまいこと言われるのが苦手なんですが、
その点、岩田さんの微妙な感じが(笑)、すごくしっくりくるんです。
生意気かもしれませんが、少なくとも僕は性格が合うと思ってますし、
なんでも相談しやすいんですよね。
岩田さんの答えのなかには『スッ』とか『ドンッ』とかいっぱい出てきて、
『それ、わかんないっす~!』ってときもありますけど(笑)。
でもね、たとえば『ズバーンと行くねん!』とか、
そういう岩田さんの言葉で、
胸のモヤモヤが晴れるときがたくさんあるんです。
『調子に乗っていた』という3年目に経験した小倉での落馬。
競馬が怖くなってしまった浜中騎手を救ったのも、実は岩田騎手の助言だった。
『お前が馬を捌くんじゃない。進むべき道は、勝手に開いていくんだ』。
そんな岩田騎手の言葉を胸に騎乗を続けた結果、
勝負どころでひと呼吸、ふた呼吸置くことができるようになり、
ある日、恐怖や迷いがふっと消えた瞬間があった──とは、
当時の浜中騎手の言葉だ。坂口師、厩舎スタッフのみならず、
こうして多くの人に支えられて今がある。
川田先輩や藤岡佑先輩にも、普段からとても良くしていただいてます。
四位さんや(福永)祐一さんも『何でも聞きに来いよ』
って言ってくださるんですが、僕自身が気負ってしまって、
なかなか実行に移せない(笑)。
そんな浜中騎手が、今もっとも〝近づきたい〟という存在が福永祐一騎手だ。
師弟関係が希薄になりつつある昨今において、福永騎手はその絆を宝物として、
大切に大切にしているひとり。自分もそうでありたい──そういう想いがあるのだろう。
祐一さんは、北橋先生や瀬戸口先生など、
自分をバックアップしてくれた方々とのつながりをとても大切にしている。
今でも厩舎のジャンパーを着てらっしゃいますしね。
とても頭がいいし、人間的にもすごく尊敬しています。
いろいろお話させていただく機会はあるんですけどね、
もっと近づきたいんです。僕のことをどう見てくださっているのか、
ご意見をお聞きしてみたいな、と思ってます。
尊敬できる先輩がいて、『何でも聞きに来いよ』と言ってくれる先輩がいて、
何でも話せる先輩がいて。そして、孫のように見守り続け、
ときに厳しく叱ってくれるであろう師匠がいる。
「甘えていた」と言いつつも、この環境があるのは、
浜中騎手のジョッキーという仕事に対する真摯な姿勢の賜物だろう。
その根底にあるのは、おそらく〝天狗になるな〟──という坂口師の教え。
これから先も、この坂口師の言葉が、〝フリー・浜中俊〟を支えていくに違いない。