(取材日=2011年7月6日)
佐藤哲三は、これまで数々のプレッシャーを力に変えてきた。
しかし、そんな彼にも毎回緊張するレースがある。
実はGIよりも新馬や未勝利のほうが緊張するんです。
GIに出るような馬はだいたい完成していますし、
(馬を)造ってきた自信もあります。
だから少しくらい上手くいかないことがあったとしても、
“馬が連れていってくれる"という部分があるんです。
でも、新馬や未勝利の場合だと、
能力はあるのに上手く力を出せなかったり、
ちょっとしたミスが結果を左右してしまう。
それにただ勝つだけではなくて、
“教えるべきことをきちんと教えていく"ことを
念頭に置いて競馬をしているので、余計に緊張するんです。
最近、もっとも緊張したのは
7月3日・京都3Rの3歳未勝利だったという。
佐藤が騎乗したシェルエメールは、
それまでの2戦を連続2着に好走しており、
単勝オッズ1.8倍の1番人気に推されていた。
前走、前々走と同じように、早めに外に出しても勝っていたと思います。
でも、内で厳しい競馬を経験させておかないと、
上にいけばいくほど通用しづらくなる。
ここで楽をして勝って、次の500万クラスで試すこともできますが、
そこで揉まれて終わってしまう馬も、過去にはたくさんいましたからね。
だから、その前の未勝利で経験させておくことが大事だと思ったんです。
もちろん馬券を買ってくださったファンに迷惑がかからないように、
結果を出すことが大前提なんですけど。
シェルエメールは、ギリギリまで内で我慢し、
直線半ばで外に出されると、鋭く伸びて1着。
終わってみれば2着に2馬身1/2差をつけての快勝だった。
“内で我慢できるか"、“内に入ったはいいが、出てこられるか"など、
いろいろ考えながらの競馬だったので、ホンマに緊張しました。
僕は基本的にビビりなんです(笑)。
教えてきたことが少しずつ身に付いていき、
やがて大舞台で結果を出してくれる。
タップ以降も、エスポワールシチーやアーネストリーなど、
佐藤はそれを何度も体験してきた。
ただ勝つだけではなく、レースごとに課題を設け、
ひとつひとつクリアさせることの重要性を佐藤は誰よりも知っているのだ。
乗り替わりの多い今の時代に合っていないのかもしれないけど、
僕は馬と一緒にステップアップしていくことを
大事にしていきたい。
そんな僕を応援してくださるオーナー、調教師、厩務員、
それこそ生産の方もいます。
だからこそ結果を出さなければいけないんです。
昔のようにジョッキーが同じ馬に乗り続けることは難しい。
佐藤も今春、デボネアでダービーに騎乗する予定だったが、
直前に世界の名手ランフランコ・デットーリと乗り替わった。
あれはね、
乗り替わったこと自体は悔しくなかったんです。
皐月賞のころから中竹先生に言われていたので、覚悟はできていました。
ただ、一部の新聞記者やジャーナリストのやり方にガッカリしました。
記事を書かれることはかまわないんです。
そのほうが新聞も売れるでしょうから。
ただ、記事を書く前に僕に直接コメントを聞きにくるとか、
掲載後にケアをしにきてもいいんじゃないのって。
僕の勝手な思いかもしれないですが、
同じ職場で働いている者同士、そこは守ってほしかった。
佐藤は人に対しても、
馬に対しても信頼関係を大事にしていきたいと思っている。
入国審査の問題で、ダービーウィークの木曜日の朝まで
デットーリはダービーに騎乗できるかわからなかった。
当然、佐藤にも騎乗の可能性が残っていたので、
“勝つため"のモチベーションを保たなければならなかった。
そんな中での“デットーリ&デボネア 夢の共演"の見出しや
“デットーリが乗ると5馬身違う"という内容の記事。
確かに話題性という意味ではデットーリの記事のほうが盛り上がる。
しかし、佐藤の立場からしてみれば、複雑な心境だっただろう。
せめて、同じトレセンにいるマスコミの人間は、直接、佐藤に会いに行き、
ケアのひと言があっても良かったかもしれない。
デビューしてから今年で23年目。この春でさえ、
ダービーの乗り替わりや宝塚記念制覇などの大きな出来事があった。
それ以前には、もっとうれしかったことや、
悔しかったことが数えきれないほどあったことだろう。
その中でも、一番うれしかった出来事は何だったのだろうか。
やっぱり今年の宝塚記念かな。
エスポのJCダートもうれしかったんですが、その前に怪我をして、
“芝のGIをもう一度勝ちたい"
というのが僕の中での大きな目標だったので。
2007年、佐藤はその年に2度の落馬をして大怪我を負った。
とくに2度目は、左第4・5腰椎横突起骨折、左腸骨亀裂骨折、
右足部挫傷、腰部挫傷し、騎手を辞めようと本気で思ったという。
復帰はできたんですが、上手く馬を動かせなかったり、
自分の動きが頭の中のイメージとかけ離れていて、相当めげました。
そんな中、エスポと出会って、GIを勝たせていただき、
すごくうれしかったですね。
それ以降、今度はエスポのように先行させて、
馬の力を全面に出すような競馬で
芝のGIを勝ちたいという思いが強くなったんです。
でも、たぶんそれは無理だろうなと思いつつも、
でもやっぱり勝ちたいから努力をして・・・。
そうしたら、がんばってきたことが今年結果に出た。
しかも、デビューのころから支えてくださっているオーナーの馬で
勝てたというのが余計にうれしかったですね。
復帰後の最大目標は達成したが、引退までの時間はまだまだある。
今後、ジョッキーとして、どのような存在になりたいのか、
そして今後の目標はあるのだろうか。
そうですね、ファンに対して、
もう少しイメージアップしていきたいかな(笑)。
あとは凱旋門賞、ブリーダーズC、ドバイの海外BIG3レースの
いずれかを勝ちたい。
国内でいえば新潟の重賞ですね。
これを勝てれば全場重賞制覇を達成できるので。
そうそう、1995年から毎年重賞勝っているので、
それも引退するまで続けていけたらいいかな。
あっ、あともうひとつあった。
やっぱり競艇選手になってみたい(笑)。
言い出せばきりがない野望。
この気持ちがある限り、佐藤は現役を続けていくことだろう。
そして、いつか海外の大きな舞台で、
佐藤と相棒が真っ先にゴールをする瞬間を観てみたい。
その時の相棒はアーネストリーなのか、エスポワールシチーなのか。
それとも、これから出会う新しい相棒なのだろうか。
“ジョッキー佐藤哲三"の今後が楽しみでならない。