『ジョッキーという仕事が大好きです』 騎手オタク(!?)秋山真一郎騎手を直撃!

(取材日=2011年7月21日)

過去のVTRを観て、騎乗馬の研究をする──
多くのジョッキーが普段から行っている下準備のひとつだ。
あるいは、先入観を持たないために、まったく観ないというジョッキーもいるだろう。
いずれにしても、"仕事"の一環であり、決して"楽しい"作業ではないはずだが、
秋山騎手の場合はというと…。

秋山
ホントに好きなんです、競馬の映像を見るのが。
いまだに"楽しい"っていう気持ちがあるんですよ。
最近はね、また一段と"変態"
みたいになってきていてね(笑)。

"騎乗オタク"に続いて"変態"とはこれいかに!その真意に迫ってみよう。

秋山
毎日、競馬の映像を観ることもそうですけど、
たとえば、自分の騎乗に対して、
ほんのちょっとしたことが気に食わなくなってきたんですよ。
もっとストライドを伸ばせたんじゃないか、
逆に、折り合いをつけるときに、
もっとストライドを縮められたんじゃないか…とかね。
とにかくもっともっとうまくなりたいっていう思いが、
今の一番のモチベーション。
これからも、
ただひたすらに
技術を磨いていきたいんです。

05年、夏の主戦場をそれまでの小倉から、激戦区・北海道に移した。
それもひとえに、技術向上を目指してのもの。
実際に北海道での競馬は、彼の"オタク心"をいまだにくすぐり続けている。

秋山
北海道にはうまいジョッキーがたくさん来てますからね。
盗むところがたくさんあるんです。
だから、
とにかくいつもガン見してますね(笑)。 直接アドバイスを求めたりはしません。
VTRも含め、僕のやり方はひたすら見ることです。
そのあたり、僕は"キモイ系"ですからね(笑)。

技術だけではなく、32歳となった今、体のメンテナンスにも気を配る。
「僕、体のなかで、足首が強烈に硬いんです」と語るその表情は、心の底から悔しそうだ。

秋山
馬に乗ったときに、動く範囲がもっと広くならないかなぁと思って、
最近、地上にいるときは、なるべくしゃがんで
(足首に)全体重をかけるようにしてるんです。
いい騎手だなぁと思う人にくらべると、僕はやっぱり硬い。
あとは、走ったり、木馬に乗ったり。ジムにもたまに行きますね。
やっぱり、ある程度、体力は必要だと思いますから。
なにしろ、
外国人ジョッキーって、
ムッキムキですからね(笑)。
すごい体してますよ。

外国人騎手に対抗心を燃やして…のトレーニングではないだろうが、
やはり、体ひとつをとっても刺激を受けるところがあるようだ。
はたして5年前、地方騎手や外国人騎手の相次ぐ参戦に対して、
きっぱりと「いい迷惑です」といい切った秋山騎手。
外国人騎手の台頭がより顕著になった今、改めて彼らについて、そして現状について聞いてみた。

秋山
昔から思ってましたけど、ホンマにいい迷惑ですよ。
僕たちは、限られた星を奪い合ってるわけですからね。
ただ、馬を正しく動かすということに関しては、
僕よりうまい外国人ジョッキーはたくさんいます。
正しく扶助を使って、正しく馬をコントロールする。
彼らの場合、それらが馬に正しく伝わってるんですよね。
一緒に乗っていて、たしかにすごいなと思うことはあります。
ただ、"外国人騎手"とひとくくりに考えるのは、
僕はどうかと思いますけどね。
"外国人騎手"っていうだけで、
どんどん有力馬を乗せるみたいな
風潮になってますけど、
そこは僕には理解できない。
まぁ反面、うらやましくもあるんですけどね。

最後に「とにかく僕らは、結果を残すしかないんです」といい、視線を落とした秋山騎手。
ふと、以前に聞いた"GIに数多く乗れる騎手になりたい"という彼の言葉を思い出した。
14年目を迎えた今、やはりそこには忸怩たる思いがある。

秋山
今年の上半期のGI(騎乗)は、結局、宝塚記念だけでしたからね…。
自分で自分が情けないです。しょうもない騎手ですよ。
もうワンパンチ足りない。
やっぱり…GIなんでしょうねぇ。技術はもちろんですけど、
僕はやっぱり、
ちょっと愛想が足りない…かな(笑)。
あまり社交的なことが好きじゃありませんからね。
この前も、僕より年下の厩舎関係者の子に
「先生にいつも、
(乗り役は)秋山さんがいいんじゃないですかっていうんですよ。
でも、先生は"あいつはダメだ。愛想がない"って言うんです」
って、言われて(笑)。ホント、難しいですよね…。

騎手という仕事には、自身が"オタク""変態"というほどに、まっすぐに向き合っている。
いっぽうで、「依頼してくれるのは人ですからね」というのもまた、彼の言葉だ。
技術を追求することと、円滑な人間関係を築くこと。不器用な彼にとって、やはりそれはジレンマだろう。

秋山
ストレス、溜まりますね。 勝ったレースでも納得できなかったり、
もうちょっと愛想よく…とか考えたり。
まぁ、パーッと酔っ払って、あとは寝て起きれば、
たいていは忘れてますけどね(笑)。
毎週のように、競馬が終わったあとは落ち込みますけど、
楽しくお酒を飲んで酔っ払って、
後輩に悪戯したりして発散させてます(笑)。

そういって、屈託のない笑顔を見せる秋山騎手だが、彼はもともと、お酒が強いほうではない。
そんなことを思いながら、「今、なにをしているときが一番楽しいですか?」と聞くと、

秋山
それはもう、土日ですよ!
競馬をしているときが、
一番楽しいです。

と、きっぱり。"ああ、この人は本当に騎手という仕事が好きなんだな"──改めて、感じた瞬間だった。
さて、前述したように、毎日欠かさず、なんらかの競馬の映像を観ているという秋山騎手。
その時間以外のプライベートは、どんなふうに過ごしているのだろうか。

秋山
とくになにもしてないです。
たまには家族で出かけたりもしますけどね。
僕ね、暇が好きなんですよ。ボーっとしてるのが大好きなんです。
「ああ、今日もなんもないわ」みたいな、そういう時間が幸せです。
休みだからどこかに行きたいとか、何かをやりたいとか、
そういうのがないんです。
なんていうのかな…物事にあんまり興味がないですね。
趣味もないです。
あ、趣味は競馬を観ることですね(笑)。
1日1回は、絶対にグリーンチャンネルを観ますから。
下準備としてVTRを観るのも好きなんですけど、
過去のレース映像とか、昔の名馬の特集とか、
そういう番組を観るのも好きで。
それが至福の時間なんです(笑)。
僕から競馬を取れば、本当にテキトーな人間だと思いますよ。
とりあえず、なんでも人任せ。
自分で主導権を握ってなにかしようとか、
そういう気持ちがまったくないんですよね。

そう嬉々として語る秋山騎手を見ていると、うん…たしかにこれはオタクの領域(!)
かもしれないと思い、ある意味、うらやましいなと思った。
"好きこそ物の上手なれ"──秋山騎手が秋山騎手でいる限り、その進化は止まらないはずだ。
そしてもうひとつ、彼が口にしたのは、騎手という仕事が好きだからこそのジレンマ。
これは、多くの騎手にとって、永遠のテーマと言っていい。

秋山
たしかにいろいろ思うところはあります。
結果を出さなきゃいけないのも十分わかってます。
でも、今やるべきことがあるんじゃないか、
それが大事なんじゃないかとも思うんです。
僕は、競馬の過程が大好きなんです。
本音を言えば、目先の1勝ではなく、
3走後、4走後まで考えて乗りたい。
でも今の風潮は、今日勝て、今勝て、ですからね…。
もちろん、今できることは精一杯やるんですよ。
でも、次、その次を考えたら、もちろん1着は狙いつつ、
今やるべきこと、教えるべきことを教えたいと思うんです。
とくに新馬なんかは、
最初のうちにいろんなことを覚えさせておいたほうが、
将来につながりますからね。

結果がすべてと言ってしまえばそれまでだが、相手は生き物だけに、
当然、結果にたどり着くまでには過程がある。
その結果を、目先の1勝とするか、あるいは未来の大きな1勝とするか。それは人それぞれだ。
そして、言うまでもなく競馬はギャンブル。
だからこそ、秋山騎手だけではなく、多くの騎手がジレンマを抱えている。

秋山
デビューしたころから感じていたことですけど、
こういう考えはなかなか通じませんね。レースが終わったあとに、
説明させてもらったりはしますけど、
それが厩舎サイドにどれだけ伝わっているかは、
僕にはわかりません。
ただ、キャリアを積んで思うのは、
みんなにわかってもらうのは無理だということです。
わかってくれる人が、ひとりでもいればいいなと。
これがもう、僕のスタンス。今はそう思ってます。

ここで改めて「そういう意味で、父は本当にすごい人ですよ…」と、言葉をもらした秋山騎手。
いわく「超えられない存在」であると同時に、よき理解者であり、
本人ははっきりとは口にしないが、その存在が支えになっているのは確かだ。

秋山
朝、調教で顔を合わせますけど、
お互い、無視してますからね(笑)。
朝会うと、なんかすごく距離を感じます。
飯を食いに行ったり、飲みに行ったりもしないし…。
ただ、デビューした当初、
よく『外を回るな、内を回れ』って言われましたね。
気づいてみれば僕、外を回るの、好きじゃないですもんね。
オヤジは…、
僕の一番のファンだと思います。
それは感じます。勝つと「よかったな」って一言ですけど、
メールをくれますからね。本当にいいオヤジです。
僕が同じサークルにいることで、いろいろ気も遣うだろうに…。
僕とはまったく違うタイプで、本当に誰からも愛される人です。
幸せそうですよ。

口調はぶっきらぼうだが、父・忠一氏に対する感謝の念が、ひしひしと伝わってくる。
とはいえ、父とはまた違うスタンスで、騎手道を邁進する秋山騎手。
そんな彼が描く、5年後、10年後の自分とは──。

秋山
たぶんこの先、もっと体が硬くなるでしょうからね…。
そんななかでも、今よりもっともっとかっこよく乗っていたいです。
僕、見た目をめっちゃ気にしますから。
乗っている姿がかっこいいジョッキーに憧れて、騎手になったんです。
だから10年後も、最低、今と同じくらいのフォームで乗っていたい。
"なんか、おっちゃんが乗ってるぞ"
みたいな感じには、
絶対になりたくないですね。

高度な技術をもって、かっこよく乗る──
あくなき探究心を持って、騎手という職業に挑み続ける秋山騎手。
この秋、そんな秋山騎手の闘志をかきたてる馬が、スタンバイしている。
厩舎サイドも「厩舎の初GIを飾るのは、この馬かもしれない」と意気込む、ハートビートソングだ。
同馬が所属するのは平田厩舎。年月を経て築き上げた信頼関係は、大舞台ではなによりの武器となる。

秋山
あの馬は、ホントにいい馬です。宝塚記念も、よう頑張ってくれた。
あとはキャリアを積むことですね。
能力のある馬って、大きいところで揉まれることによって、
能力が目覚めるというか、もっと速く走れるようになるんですよ。
あの馬には、そういう素質がありますからね。
もっともっと強くなりますよ。
だから、ずーっと乗っていたい。 秋にはまた、外国人ジョッキーが来ますから、
僕ももっともっと精進しないといけませんね。

と、力強く締めくくった秋山騎手。
GIの大舞台で、あの独特の柔らかいフォームがトップゴールを切ったとき──
秋山騎手の第二章が始まるのかもしれない。

『ジョッキーという仕事が大好きです』 騎手オタク!? 秋山真一郎騎手を直撃

ジョッキーインタビュー!CLUB GRIP トップへ戻る