(取材日=2011年10月6日)

10月16日、秋華賞。GI2連勝を狙った池添は、3着に終わった。
3歳牝馬同士による最後の一冠、
定年を迎える厩務員に捧げたかった有終の美──
無念の思いは計り知れないが、
人馬ともに力を出し切った一戦だったに違いない。

そして緊迫の秋は続く。
第72回、菊花賞。いよいよ“史上7頭目"へのゲートが開く。
スプリンターズS直後に行われたこのインタビュー。
以前、『大きなチャンスの前は、自分をあえて追い込んでいくタイプ』だと
語っていた彼だけに、その精神状態が気になった。

まだまだ普通ですよ。
北海道から帰ってきたばかりなので、心身ともにゆっくりしてます。
緊張感は…まだ高まってこないですね。
朝、攻め馬に行って、ご飯を食べて、昼寝して…。
いつもと一緒です(笑)。

そうはいっても、三冠のかかる特別な秋。
その瞬間を想像しないはずはない。

やっぱり、菊花賞のことは、つねに頭のどこかにある。
考え始めると、グッと体が固まる感覚があります。
負けたらどうしよう…って考えることも。
あとは、騎乗停止とケガ。
それだけは気をつけなればと思っています。

ビッグレースに無類の強さを見せる池添をして
“考え始めると体が固まる"とは、
プレッシャーの大きさがダイレクトに伝わってくる。
が、その表情には、どこか余裕が。
思えば今年の池添は、皐月賞、ダービーの2冠制覇に加え、
札幌リーディングへの初戴冠、そしてスプリンターズS優勝と、
その勢いは増すばかり。改めて成績をひも解いていくと、
ダービー前とダービー後では、勝率、連対率ともに倍以上違う。

一気に(成績が)上がりましたね。
自分でもはっきりとわかります。
やっぱり、いい馬に乗せていただいてますから。
1番人気に乗る機会も増えたんじゃないかなぁ。

そして、この夏は北海道シリーズでも、
その存在感は際立っていた。
自身、デビュー2年目に『プロの洗礼を受けた』と振り返る、
日本一の激戦区。
13年目にして、ついに札幌リーディングの頂点に立った。

北海道シリーズに本格的に参戦するようになって4、5年目なんですけど、
函館や札幌のリーディングは、いつか獲りたいと思っていたタイトル。
自分にとって、すごく自信になりました。
関係者の方に、ホントに感謝です。
勝ってくれた馬にも負けてしまった馬にも、
“ありがとう"っていう気持ちですね。
今年は、いつになくリラックスして、食べ歩きとかも楽しんで。
スープカレーもラーメンも、例年以上に食べに行きましたね。
レースにもすごくリラックスして臨めたような気がします。

これはもう、余裕などではなく、
ダービージョッキーならでのオーラというべきか。
改めて、ダービー後、自身の身に起こった変化を聞いてみた。

僕っていうより、周りの方の見方が変わりましたよね。
いい馬に乗せていただいてるなっていう実感はありますから。
あとは、メンタル面でもレースでも、
自分自身、余裕が出てきた感じはありますね。

ここ一番での勝負強さに加え、
ダービージョッキーとしての余裕と自信を身に付けた池添。
スプリンターズSやローズSで感じた怖いほどの冷静さこそ、
その現れなのかもしれない。
そして、ダービー馬の秋初戦、神戸新聞杯。
このときの人馬からは、“余裕"という表現では言い尽くせない
凄みと貫禄が漂っていた。圧巻だった。

ケタ違いでしたね。
レース後は
『この馬、この先どれだけ強くなるんだろう…』って、
素直に思いました。
心の底から“すごい!"って。
ホントに強かった。ただ、おそらく見た目以上に、
折り合いには厳しいものがありました。
次の日『しっかり折り合いもついて…』って書いてある新聞を見て、
“そうじゃないのに"って。
僕は正直にコメントしたつもりなんですけどね。
もっとしっかり伝えてほしいな。

舞台は京都の3000mだけに、たしかに折り合いは最重要課題ではある。
が、それは、3000mという未知の領域に挑む出走全馬に共通すること。
神戸新聞杯では
『ずっとハミを噛んでましたし、行きたがってましたよ』というが、
それでいてあのパフォーマンスなのだから、
課題以上に力の違いを痛感する。
ダービーから5か月弱。鞍上同様、馬も確実にパワーアップしている。

僕が一番感じたのは、トモの成長です。
トモが成長したことによって、競馬も春とは全然違いました。
反応の良さにも磨きがかかっているし、
直線の伸びもさらに力強くなってる。
乗っていて、すごく成長を感じました。

夏の間は、栗東からほど近い「ノーザンファームしがらき」で
リフレッシュしたオルフェーヴル。
北海道ではなく、自分の目の届くところに…
という池江師の選択だったに違いない。
こうして無事に夏を越し、前哨戦を圧勝。
スタッフの緊張感も、さぞかし高まりつつあるのではないか。

いえ、少なくとも僕の前では、
みなさん、そういう素振りは見せないです。
僕は乗っていませんが、2週前の追い切りのあとも、
いつも通りに先生が『良かったよ』っておっしゃって。
担当されている森澤さんからも
『一度使って良くなっているよ』って聞いてます。
森澤さんは、レースの前も後も、とても飄々としている方なんです。
ダービーを勝ったときも、
僕が『森澤さん、やったぁ~!』って興奮しているそばで、
普通に『うん、うん』って(笑)。
僕がすごく緊張するタイプなので、逆にありがたいです。

最後に3冠への意気込みを聞くと、
大きく息を吸い込み『緊張しますね…』と、つぶやいた。

僕がするべきことは、油断することなく、
折り合いに細心の注意を払いながら、
馬としっかりコンタクトを取って、リズムよく走らせてあげること。
とにかく馬は、ものすごく強くなってます。
3冠を獲れる馬だと思うし、獲らなきゃいけない馬だと思う。
みなさん、1頭だけ力が抜けてるって思ってるでしょ?
それがね、いいんですよ。
だって、 負けたら完全に僕のせいですから。
はい、僕次第です。
頑張ります!

10月23日、京都競馬場──
進化をやめない最強コンビの歴史的瞬間を目撃しよう。

(第3回へ続く)

前代未聞の秋へ──池添謙一騎手独占インタビュー

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