(取材日=2013年2月27日)

安藤
凱旋門賞は、行きたい気持ち半分、断りたい気持ち半分やったね。
たぶん俺では勝てないだろう…
と思っていたから。
自信がなかったね。
凱旋門賞はずっと観ているけど、ペースや乗り方に独特のものがある。
この春、池添くんは経験を積みにフランスに行くとのことだけど、
はたして対応できるかな…っていうのが、俺の正直な気持ちだね。
オルフェーヴルの凱旋門賞でいえば、
思った以上にビュン!と動いてしまったから、
結果的にスミヨンは失敗したけど、
そこに至るまでの過程が、やっぱりちょっと違う。
中央よりももっともっと遅いペースのなかで、
馬を抱え込んでグーッと我慢させて、そのなかで遊ばせている。
そういうところが、外国人ジョッキーは優れているよね。
──
たしかに難しいことかもしれませんが、
「やれることはすべてやっておきたい」という
池添さんの姿勢は素晴らしいと思います。
安藤
それはもちろん。なかなかそこまでの冒険はできないからね。
そこに重点を置いて行動するという姿勢は素晴らしいと思う。
俺らがかつて“中央のGIを勝ちたい!”と
思った気持ちと同じなのかもしれないね。
俺自身は、凱旋門賞を勝つなんて、ハナからあきらめていたから。
変な言い方かもしれないけど、自分を変えられない自信があった。
だから、池添くんがどう変わるのか、逆に興味があるね。

安藤
うん、それは本当。馬がね、そういう馬だったの。
普通は、走る馬でもなにかしら不安材料があるもんでね。
返し馬がどうとか、ゲートがどうとか、折り合いがどうとかね。
でもあの馬は、そういう不安材料がなにもなくて。
ダービーに向かっていく状態としても、なにも不安がなかった。
緊張しなかったのは、
あの馬だったからだと思う。
──
中央に移籍されて、初めて制したのがビリーヴでの高松宮記念。
移籍初年度ということもあり、
あのときはさすがに緊張感があったのでは?
安藤
今思えばあったと思うよ。忘れちゃったけど(笑)。
──
以前、「涙が出るほどうれしかった」っておっしゃっていましたね。
安藤
うん、あれはうれしかったね。
ただ、涙が出るというか、
あのときは息が詰まるような感覚になった。
ジョッキーになってから初めての感覚だったね。
涙が込み上げるとかそういうのではなく、
息がこうグーッと詰まって、息苦しくなって。
こんな苦しい思いをするくらいなら、
もう勝ちたくねぇなって思ったくらい(笑)。
それほど、胸が詰まって息が苦しくなって。
あの感覚は、すごく覚えてる。

安藤
うん、勝つと思っていたから
「ダービーやし、勝ったら
  普通はガッツポーズくらいするよな。
  俺もしたほうがいいよな」
って、レース前から考えてた。
でもいざやってみたら、中途半端になってしまって(笑)。
──
さきほど、まったく緊張しなかったと
おっしゃっていたくらいですから、相当自信があったんですね。
安藤
そうだね。あれは本当に自信があった。

安藤
本当です。
あれはね、うれしかったから。
なぜかというと、その前の天皇賞がひどいレースだったからね。
天皇賞は休み明けで、
調教からものすごくテンションが高かったんですよ。
だから、本番もすごく不安だったんだよね。
案の定、全然競馬にならなくて、
途中で“これは完全に馬群に沈むな”と覚悟したくらい。
まさかハナ差の勝負になるなんて、そのときは思いもしなかったよ。
──
かなりのハイペースでしたものね。
安藤
そう。だから、あれで逆にね、馬の力を確信したところがあって。
天皇賞を使ったあとは、調教でもだいぶ落ち着いていたから、
これなら大丈夫だなと。だから有馬記念は、
中途半端に格好を付けて、いい競馬をしようなんて思わずに、
もう行っちゃおうと思ってね。
付いてこられるものなら、付いてこい!くらいに思っていたから。
──
有馬記念前にお話をうかがったとき、
「大逃げするかもしれないよ」って
おっしゃっていたことを覚えています。
安藤
そうそう。
それでも勝てると思っていたから。
結局、付いてきた馬はみんな止まっちゃったでしょ?
──
そうでしたね。本当に強い競馬でした。
あの勝ちっぷりに、
さすがの安藤さんも思わず手が挙がってしまったわけですね。
安藤
そうだね。馬の力を褒めてやってほしかった。
そういう気持ちがあったね。
正直、
当時ライバルといわれたウオッカより、
全然力は上だったと思うよ。
本当に強かったよ、あの馬は。
すごい馬だった。

安藤
うん、思ってた。
秋山くんとかユタカちゃん(武豊騎手)とかね。
それはずっと思ってたね。
──
でも、あれだけの馬ですから、
ジョッキーの心理としては、普通“絶対に手放したくない!”と思うのでは?
安藤
たしかに、ずっと乗りたいとは思っていたよ。
でも、負けたら乗り替わってもおかしくないわけでしょう。
それなら、合う騎手を乗せたほうがいいし、
秋山くんとかユタカちゃんが乗ったところを
見てみたいと思う気持ちもあった。
実際、合うかどうかはわからないけどね。
俺のなかでは、彼らのほうが合うんじゃないかって、
ずっと思っていたのは本当だね。
 
第3回へ続く

安藤勝己が今だから明かす『噂の真相17』

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